虫歯が進行し、歯の神経(歯髄)が炎症や感染を起こしてしまうと、「根管治療」という治療が必要になります。しかし、患者様の中には「抜歯のほうが早いのでは?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、抜歯をすれば痛みや感染のリスクはなくなりますが、大切な歯を失うことには大きなデメリットがあります。
そこで今回は、根管治療と抜歯を比較しながら、根管治療のメリットを詳しく解説していきます。歯の健康を守るために、適切な治療方法を選ぶことはとても重要です。この記事を参考に、ご自身やお子様の歯の治療について考えてみてください。
▼そもそも根管治療とは?
はじめに、根管治療の基本事項を確認しておきましょう。ここでは根管治療が必要になるケースと治療の流れを解説します。
◎根管治療が必要になるケース
根管治療は、歯の内部にある神経(歯髄)が炎症を起こしたり、細菌感染を引き起こしたりした場合に行われる治療です。歯髄炎や根尖性歯周炎といった病態が進行すると、激しい痛みや腫れを伴うことがあり、これを放置すると、歯の根の先に膿がたまり、歯茎が腫れることがあります。また、感染が広がると、顎の骨の吸収や全身への影響を及ぼす可能性もあります。
主な原因としては、深い虫歯(う蝕)、外傷による歯の破折、過去の治療による歯髄の損傷などが挙げられます。特に、虫歯が象牙質を超えて歯髄に達した場合、冷たいものや熱いものにしみる症状が続き、やがて何もしなくてもズキズキとした痛みを感じるようになります。さらに進行すると、神経が壊死し、一時的に痛みがなくなることがありますが、これは決して治癒したわけではなく、次の段階として細菌が根の先で炎症を引き起こすリスクが高くなります。
◎根管治療の内容
根管治療は、感染した歯髄を除去し、根管(歯の内部の管)を清掃・消毒し、再感染を防ぐために密閉する治療です。具体的な手順としては、まず局所麻酔を施した後、歯の内部にある歯髄を慎重に除去します。次に、根管内を専用の器具で拡大・清掃し、細菌を取り除きます。この段階では、消毒薬を用いた洗浄を繰り返し行い、細菌が残らないよう徹底的に管理します。
◎最後は被せ物を装着
根管の清掃・消毒が完了した後、根管内に薬剤を充填し、密閉します。最終的には、歯の強度を回復させるために土台を作り、クラウン(被せ物)を装着します。このクラウンは、噛む力を均等に分散し、治療後の歯を長持ちさせる重要な役割を果たします。根管治療が適切に行われ、定期的なメンテナンスが続けられれば、抜歯を回避し、長期間自分の歯を使い続けることが可能です。ちなみに、歯の状態によっては、小さな詰め物で修復できることもあります。
▼根管治療以外の選択肢
根管治療を行わない場合、基本的には「抜歯」が選択肢となります。特に、感染が広範囲に及び、根管治療を行っても回復が見込めない場合や、歯が大きく破折していて修復が困難な場合には、抜歯が必要になります。抜歯を選択した場合、その後の補綴治療としてブリッジ、部分入れ歯、インプラントなどの方法が考えられます。
◎補綴治療の特徴
ブリッジの場合、隣接する歯を削る必要があり、健康な歯にも影響を与える可能性があります。部分入れ歯は取り外し式で比較的手軽ですが、異物感を覚える方が多く、長期的に見ると周囲の歯に負担がかかることがあります。インプラントは、人工歯根を埋め込むことで天然歯に近い噛み心地を得られますが、外科的手術が必要であり、治療期間が長くなるというデメリットがあります。
これらの治療法にはそれぞれ利点と欠点があるため、できる限り根管治療を選択し、天然の歯を残すことが望ましいです。しかし、歯の状態によっては抜歯がやむを得ない場合もあるため、歯科医師と相談しながら最適な治療法を決定することが重要です。
▼根管治療と抜歯の比較
根管治療と抜歯を比較した場合は、次のような違いが見られます。
1.天然歯を残せる
根管治療の最大のメリットは、歯を抜かずに済む点です。自分の歯を維持することで、噛み合わせのバランスを保ち、食事や会話の際の違和感を最小限に抑えることができます。また、周囲の歯への負担が軽減されるため、将来的な歯列の崩れを防ぐことにもつながります。一方、抜歯を選択すると、隣接する歯が傾いたり、対合歯が伸びたりすることで、噛み合わせが乱れるリスクが高くなります。
2.治療後の違和感が少ない
抜歯をした場合、インプラントや入れ歯、ブリッジなどの補綴装置を装着する必要がありますが、これらは天然の歯とは異なるため、異物感を覚える方が少なくありません。特に入れ歯の場合、装着後に違和感が生じたり、噛みにくさを感じたりすることがあります。一方、根管治療を受けた歯は、自分の歯としての機能を維持できるため、自然な感覚で食事や会話を楽しむことが可能です。
3.治療費の負担
短期的には、根管治療とクラウンの装着には一定の費用がかかりますが、長期的に考えると、抜歯後の補綴治療よりもコストを抑えられることが多いです。例えば、インプラント治療は非常に高額であり、定期的なメンテナンスも必要となります。また、ブリッジを選択した場合でも、支台となる歯に負担がかかるため、将来的な治療の必要性が増す可能性があります。したがって、可能な限り天然歯を残すことが経済的な負担を軽減することにつながります。
4.治療期間の違い
根管治療は、通常数回の通院が必要ですが、抜歯を選択した場合、その後の補綴治療にも時間がかかるため、治療全体の期間が長引くことがあります。特にインプラント治療では、手術後に骨とインプラントが結合するのを待つ期間が必要であり、完了までに数か月以上かかることが一般的です。そのため、できるだけ短期間で治療を終えたい場合には、根管治療が有利と言えます。
5.顎の骨の維持
歯を抜くと、その部分の顎の骨が次第に吸収され、骨量が減少することがあります。特に前歯など審美性が求められる部位では、骨の吸収が進むと見た目に影響を与えることもあります。一方、根管治療で歯を残せば、噛む力が維持され、顎の骨の健康を保つことができます。特にインプラント治療を検討している場合、骨の量が不足すると追加の骨造成手術が必要になることもあるため、できる限り自分の歯を残すことが望ましいです。
▼まとめ
今回は、根管治療と他の治療法(抜歯+補綴治療)との違いについて解説しました。根管治療と抜歯を比較すると、歯を残せることがいかに大切なのかが分かります。根管治療を適切に行えば、歯を抜かずに機能を維持でき、噛み合わせのバランスも保てます。一方、抜歯はその場では問題を解決できますが、長期的に見ると多くのデメリットがあるため、慎重に判断することが必要です。
もちろん、歯の状態によっては根管治療が難しく、抜歯が最善の選択となる場合もあります。そのため、歯に違和感がある場合は早めに歯科医院を受診し、適切な診断を受けることが重要です。
草加市のタケノコ歯科・矯正歯科クリニックでは、患者様の歯をできる限り残す治療を心がけています。根管治療に関するご相談がありましたら、お気軽にご来院ください。あなたの大切な歯を守るお手伝いをいたします。